2026.10.28 POSTED

映画『時給三〇〇円の死神』
ティーチイン付き舞台挨拶第二弾 レポート

10月27日、TOHO シネマズ 新宿にてティーチイン付き舞台挨拶が実施され、不幸にも出産時に亡くなってしまった広岡加奈役を演じた佐津川愛美、そして酒井麻衣監督が登壇した。
公開から3週間余り。作品の反響を聞かれた佐津川は、俳優業とは別に、映画の現場を知ってもらう活動をしており、そこで接する子どもたちも本作を観に行ってくれていると紹介した。「小学生もお母様も一緒に楽しんでくれているみたい。いろいろな世代の方に観ていただけているのかなと思うと、うれしいです」と喜びを伝えると、酒井監督も幅広い世代から感想が届いていることに「うれしいですね」と応じた。

 
以前から酒井監督の作風が好きで、一緒に仕事をすることを望んでいた佐津川。実際の撮影で印象に残ったのは、その現場での酒井監督が指揮を執る姿だったという。「現場の仕切り方が男前すぎて、かっこよかった」と切り出し、俳優だけでなく各部署へ的確に指示を出し、全員を引っ張っていく姿を称えた。演出についても「酒井監督はベースを作った上で、『この中では何をしても大丈夫』って感じで任せてくれる」と振り返り、「安心感があるんですよね。ちゃんと芝居を切り取ってくれるだろうなって信頼感にもつながるし、なかなかできることじゃないと思います」と言葉を重ねた。

酒井監督も、佐津川が原作や脚本を深く読み込んで衣装合わせに臨んでいたことを挙げ、「広岡さんという役に関しては、とことん奥深くまで読み込んでくださっているという信頼感があった」と応えた。撮影現場でさらに話し合えることが楽しみだったといい、互いへの信頼がうかがえるやり取りとなった。

また、佐津川の気配りが話題に上る場面もあった。ほこりっぽい場所での撮影後に咳をしていた酒井監督に、佐津川が喉にいい蜂蜜を差し入れたそうで、監督は「本当に心が温まりました」と感謝を伝えた。

役の準備では、日常的に編み物をする人物として、手元を見ずに編めるよう練習した佐津川。酒井監督は、佐倉くんたちとのシーンで、相手と打ち解けてきた頃に広岡さんなら編み物をしながら話すのではないかと考えたことを説明し、佐津川が短期間で編み物の動作を習得して現場に来てくれたと振り返った。ところが、佐津川にとって編み物は「一番苦手(笑)」だという。「見なくてもできるようにして欲しいってことで、別の現場で練習していました。電車の中でもやっていました」と、撮影に向けた努力を明かした。

昨今の出演作で母親役が続く中でも、今回は特に産後の状態を意識したとし、体重についても「増やそうかなってことで勝手に増やしました。偶然そうなったんですが(笑)」と告白。衣装と合わせて産後らしさが出るよう相談し、帝王切開の傷が残る時期を想定して、座る際などの動きにも気を配った。酒井監督も「痛むので手をつきながら座るとかですね」と補足した。赤ちゃんとの共演についての質問には、佐津川が「天才でした。赤ちゃんが!」と絶賛。監督が以前一緒に仕事をしたスタッフの子どもに協力してもらったそうで、泣いたり笑ったりするタイミングも場面と合っていた。「こんなにうまくいくことはないんですよ。あるシーンで腕を掴んでくれたのも偶然で鳥肌。笑ってほしいところで笑ってくれたり、完璧すぎる赤ちゃんでした」と、撮影を振り返った。

また、佐津川が撮影前に大切にしているのは「台本を最初に読んだ感覚」だと言い、「初めて映画を観る方々と同じじゃないかなって思うので、初めて読んだときに自分がどう思ったかを大事にしています」と語った。読み込むほど新鮮さが薄れていくこともあるため、作品や役によっては「台本を1、2回しか読まないで行くこともあるし、すごく読み込むこともある」と、その時々の直感で向き合い方を選んでいると打ち明けた。

西畑と福本について、佐津川は「私が集中できる環境をつくってくれていた」と感謝。「お二人は関西人同士で雰囲気が似ているなと思っていたんですが、無理をせずに現場にいてくれている感じがありました」と、自然体で臨む二人の姿にも触れた。広岡の場面を撮影したのは、撮影期間の中盤だった為、酒井監督によると、西畑と福本はすでに佐倉と花森の役が身に入っているような状態で、場面に応じた振る舞いも自然にできていたそう。「広岡さんのシーンはシリアスな部分もあるから、静かに見守っていらっしゃった」と、佐津川の芝居を支えた二人の配慮を伝えた。

また、西畑と向き合う場面の撮影では、広岡は佐倉の実の母親ではないものの、佐津川は母親のような気持ちで西畑の言葉を受け止めようとしていた。「映っていないときの方が芝居を頑張るっていうか、相手がいいお芝居をしてくれるような、俳優は受けの芝居が大事だと思っていて」と、カメラが自分に向いていないときも相手を支える姿勢を明かした。佐倉の言葉が広岡自身にとっても救われるきっかけになると捉え、西畑が芝居をしやすいよう意識をしていたが、現場では「想像よりも何倍も食らった」と、その芝居に強く心を動かされた。「お芝居を受けて、あそこまでいけたっていうのは私だけの力じゃなくて、みんなでその流れをつくれた芝居だったなって思いますね」と思いを口にした。酒井監督も「佐津川さんが『来て大丈夫ですよ』って姿勢でいてくださるので、西畑さんも120%でぶつかっていった印象が強かった」と振り返り、「佐津川さんが引き出す、引き出す。表情、思いをあふれさせていくのを感じましたね」と見守っていた際の心境を語った。

特に印象に残る場面として、監督が挙げたのは広岡の手術室のシーンだ。医療監修のもと、安全に配慮して撮影する中、さまざまな器具を付けた佐津川は長時間手術台に横たわり、涙を流しながら演じていた。監督はその我慢強さに触れるとともに、「私は何度観ても心臓がぎゅっと締め付けられる」と表現。副音声の収録時には、西畑と福本もこの場面で涙を流していたといい、強く心に残るシーンとなった。

一方、佐津川が好きな演出として挙げたのは、色彩の美しさだった。冒頭と終盤の雨の場面が対比になっていることに触れ、「雨だけど明るい。ちゃんと計算されているんだろうなって。ただ綺麗ってことじゃない演出をされているのがすごく好きです」と、細部まで考えられた表現への思いを伝えた。 酒井監督は、俳優やスタッフと最初に「物語の持っている『残酷だけど美しい』を徹底してやりましょう」と話していたことを紹介。物語の残酷さに対して、色合いを美しく見せる工夫を重ねたという。また、映画では秋に始まり、春に終わる季節の移り変わりにも意図があり、佐倉と雪希の名前から「桜」と「雪」を象徴的に感じていたそう。「大事なシーンで桜と雪、自然の中に二人がいるのを映したくて」と、映像に込めた思いを明かした。

作品にちなみ、時給300円でしてみたいアルバイトを尋ねられた佐津川は、友人から子どもの勉強を添削する仕事があると聞いたことを口にし、「赤ペン先生!丸付けとかしたい」と希望を挙げ、時給300円でもやりたいかと確認されると、「やるやる!」と乗り気だった。

最後に、前日にも同劇場で副音声上映を鑑賞した佐津川は、酒井監督らによる裏話が聞ける楽しみ方だと紹介。「新しい楽しみ方として、(副音声上映も)楽しんでくれたらうれしいなって思います!」と呼び掛けた。

そして、酒井監督は「この映画が末永く、皆さんの心の中に宝物としていてくださるとすごくうれしいなと思っています」と願いを込め、「これからもこの映画を愛してくださったらうれしいです。きょうはありがとうございました!」と感謝を届け、舞台あいさつを締めくくった。